鉄くず拾いの物語のあらすじネタバレと感想

各種の映画賞で話題になった作品です。

ボスニアの現在の闇の部分、というと当事者たちに申し訳ないのですが、「貧しさ」を地でいく人に焦点をあてた作品。

しかも、出演している人たちは、医者2名を除いては本人たちが演じており、そうなるともう完全にドキュメンタリーみたいです。

 

おそろしく貧乏ながらも、幸せに暮す家族。

3人目の子を身ごもる妻。

ところがその妻が腹痛を訴え医者に見せると「死産です」と。

さらに、手術しないと妻の命も危険な状態に。

ところが、保険に加入していないため1万マルク必要とのこと。

現在のレートで6万6千円ほどです。

しかし、貧乏がゆえ、そんな大金はありません。

仕事とという仕事もなく、クルマを解体して鉄クズとして売り払って生計を立てています。

ハンマーでクルマを壊し、バンに押し込んで売りに行きます。

そんな貧困層にとって1万マルクはとてもじゃないけど払えない。

何件も医者を回ったり、国の福祉協会にも足を運びますが相手にしてくれません。

『ジョンQ』だったら銀行強盗に押し入るところです。

しかし、義理の妹の保険証を使い、実際はその妹に成り済ますので犯罪ですが、辛うじて手術は成功し、もとの幸せながらも貧乏生活に戻る、というストーリー。

 

ハンディカメラの映像で静かに物語は進むため、淡々とした映画です。

でもそこには、明らかにおかしな社会が存在し、明らかにおかしな法律があり、明らかにおかしな偏見がはびこっています。

そして画面を通して訴えられるこの窮状は、決してボスニアだけではなく、世界中で起こっていることだ、と考えさせられます。

この日本でも、仮設住宅で暮らすことを余儀なくされている人たちも同じなのではないか、と。

無能な政府と金儲け主義の人たちに牛耳られた社会で、与えられた過酷な環境でもなんとか幸せを見出そうと暮らしている人たち。

「命はカネで買え、しかも現金一括で」という今の社会へ訴えかける作品でした。

見終えた後は、やりきれなさ、みたいな感覚に襲われる作品です。

でも、一度は視聴して、その「やりきれなさ」を知ってもらうことこそ、この映画の訴えたいところなのかなあ、と感じた次第です。


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